眠れない夜をかぞえて
「事務所に連絡しておきました」

「ありがとう、俺たちも帰るか」

「はい」

持って来た時より減った荷物を持って、スタジオを出る。

「うわ……」

閉鎖されていたスタジオを出ると、外は雷と激しい雨になっていた。

「事務所を出る時、雲が怪しかったですもんね」

「この雲じゃ、暫く雨は止みそうにないな。ここで待ってろ、車をここまで回すから」

「一緒に行きますよ、うわっ!」

雷が鳴った。鳴っただけじゃなく、ピカッと光った。

「怖いな、いいかここにいるんだぞ」

「あ、ちょっと一ノ瀬さん!!」

荷物を私の足元に置いて、一ノ瀬さんは走って行ってしまった。

駐車場は少し離れている。なぜスタジオの隣にないのだと、今さらながら思う。

どんどん激しくなる雨。一ノ瀬さんは大丈夫だろうか。

「そうだわ、使っていないバスタオルがあったはず」

濡れた一ノ瀬さんの為にと、バスタオルを引っ張り出す。

「二枚しかないか」

無いよりはいいだろう。

「桜庭!!」

車が回され、車の中から一ノ瀬さんが叫んだ。

持てる限りの荷物を持ち、車に運ぶ。

「桜庭は乗って!」

既に一ノ瀬さんはびしょびしょだ。

私が持っていた荷物を受け取り、車に放り込む。

助手席に飛び込むようにして乗り込むと、バスタオルを広げて一ノ瀬さんを待った。

「凄いな」

「すぐに拭いてください」

「ああ」

すぐにバスタオルが役に立たなくなるほど、一ノ瀬さんは濡れていた。

「早く帰って温かいお風呂に入ってください。風邪をひいてしまいますから」

「送って行くよ」

「駅で結構です。一ノ瀬さんが風邪をひいてしまいます」

「案内して」

「聞いてます?」

「聞いてるよ? でも送っていく」

きっと何を言っても私を送って行くだろう。

ここで時間を取ってしまっては、ずぶ濡れの一ノ瀬さんが更に酷い状態になってしまう。

「分かりました。送って頂きます。その前に、ワイシャツを脱いで、撮影で使っていたバスローブを着てください。濡れているよりいいですし、身体も温まります」

「そうするよ」

後部座席のボストンバッグに入れてあったバスローブを取り出し、一ノ瀬さんに渡す。

ワイシャツを脱いでバスローブを羽織ると、

「温かいな。さすがに寒かった」

「良かった」

受け取ったワイシャツは絞れるほどの濡れ具合で、このまま肌に張り付いていたら、体温を奪われていたに違いない。

ワイパーを最速にしても雨で前が見えないほどの雨だ、運転は大丈夫だろうか。

「雷雨だから暫く待てば止みそうだが……出るか」

車内のフロントガラスから外の様子を見るが、本当に止みそうにない。

「お願いします」

車は速度を緩めて発進した。

周りの車もスピードはでいない。この雨と雷では車内にいても怖い。私の自宅に着くまでに、一ノ瀬さんは何度もくしゃみをした。

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