眠れない夜をかぞえて
「……ポスターの出来上がりを見て。それがすべてよ」

「もう、ケチ」

話しを切り上げて出勤すると、既に一ノ瀬さんは仕事を始めていた。

だが、顔色が悪く、少しだるそうに見えるのは気のせいだろうか。普通に挨拶をしなくちゃ。

「おはようございます。昨日はお疲れさまでした」

「おはよう、昨日は本当にありがとう、助かったよ」

やっぱり元気がないみたいだ。声に張りがない。

「あの、体調は大丈夫ですか? 少し顔色が悪いようですけど」

「あ~、クーラーに当たりすぎたな。昨日はあれからすぐに眠ってしまってね。悪いな、気を使わせてしまって」

「いいえ」

一ノ瀬さんが大丈夫だという以上、しつこく聞かないでおいたほうがいい。

同じく心配していた瑞穂に報告する。

「一ノ瀬さん、なんだって?」
「クーラーに当たりすぎたみたいだって。様子を見ましょう」
「そうね」
昨日一日出ていただけで、業務がたまっている。昼までになんとか整理は出来たが、まだまだ仕事は残っている。私でこれだけ大変なんだから、一ノ瀬さんは相当大変だろう。
夜に、瑞穂と渉と食事の約束がある。瑞穂は仕事を残しても渉を取るに違いない。昼も外には出ずに、コンビニで買って済ませる。

「ねえ、一ノ瀬さんだけど、どんどん顔色が悪くなってない?」

瑞穂も心配していた。確かに顔色が午前中よりも悪くなっている。それにくしゃみだけじゃなく、咳も出始めた。

「3時も過ぎたし、早退したらいいと思うけど」

「そうよね、ちょっと言ってみる?」

「うん」

瑞穂と二人で一ノ瀬さんのデスクに行く。

「一ノ瀬さん、早退なさったらどうです?」

「昨日の雨ですね。風邪をひいたんですよ」

バスローブに着替えさせたが、全身が濡れていた状態ではそれも意味がなかったのかもしれない。

送ってもらったことがタイムロスになった。

無理にでも帰せば良かった。



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