眠れない夜をかぞえて
誰かにじっと見られている。

瞼に眩しい何かが感じられるけど、目を開けたくない。

眠くて、眠くてどうしようもない。深く、深く、沈んでいきたいほどの眠気だ。

だけど、どうしても視線が気になる。

目を開けたくない、開けたいと、自分で自分と戦いながらも、やっぱり視線が気になった私は、ゆっくりと重い瞼を開けた。

「おはよう」

大きい手の、細く長い指で、私の髪を梳き、おでこにキスが落ちる。

「……一ノ瀬さん……」

「ゆっくり眠れたのか?」

うんと頷いて、私は一ノ瀬さんに甘える。

そうだった。昨日の夜、私は一ノ瀬さんに身を任せた。

人肌のぬくもりが恋しかった。寂しい夜を過ごした年月はもういらない。

「おいで」

一ノ瀬さんはブランケットを掛けなおし、しっかりと胸に抱いてくれた。

「……私のこと……知ってますよね?」

「……川奈から聞いていた」

「瑞穂と渉……私の弟ですけど、結婚することになりました」

「そうなのか? 川奈は抜け目のない妻になりそうだ。お祝いをしないと。あいつのことだから、ものすごく高い物を要求しそうだな」

「覚悟をしていた方がいいですよ、遠慮はしないと思いますから」

「そうだよな、今から覚悟をしておこう」

「————ずっと二人には心配をかけていました。瑞穂は一ノ瀬さんに話したんだと、なんとなくわかりました」

一ノ瀬さんの言葉の端はしに、気遣いともとれる言葉があった。

「彼と桜庭の思い出はずっと胸に秘めておくといい。思い出は二人だけのものだから」

優しく言ってくれだけど、私が話したかった。

一ノ瀬さんは私と彼の話など、聞きたくないかもしれない。それでも話しておきたかった。



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