俺様アイドルが私の家に居座っている。
考古学の授業でのフィールドワーク。

博物館で実際の出土品などを今までの講義内容を踏まえて鑑賞する。

歴史系学科っぽい内容だ。


手塚くんはいつも通り、黒縁眼鏡と前髪で顔を隠している。

近づけばかなりの美形だと分かってしまうが、集団一歩後ろで静かにしているところを見ると、大人しめ男子への擬態は相当の手練らしい。

先生の話を見ながらじっと美術品を見つめ、時々手元のノートにメモを取っている。

アイドルをしながら大学に通うぐらいだ。
学びへの意欲はなんとなく進学という親不孝な私より目に見えて高い。


横で感心していると急にこちらを向いた彼と視線がかち合った。

『真面目に話を聞け』

無言であったがそう言われた気がして、慌てて真面目な学生を装う。

自分にも他人にも厳しい人のようだ。知っていた。


授業が終わるとその場で自由解散となった。
まだ博物館内を見てもいいし、帰ってもいいそうだ。

私は必修で取っているだけの授業にそこまでの関心を抱いていなかったので、早々に帰る予定であった。


2限の授業で既に12時は過ぎている。お腹もすいていた。

「手塚くん、私そろそろ帰るけど」

知り合いなんだし無言で帰るのは野暮か、と思い一応声をかける。

「ああ」と返事があったので手塚くんはまだ見ていくと思ったら、「行くか」とさも当然のように出口に向かって歩き始めた。

「あ、うん」

脚の長い彼は数歩歩いただけで私とだいぶ距離が空く。

駆け足で並んだ。駅の方へ向かっている。


「このあと時間は?」
「いくらでもあるよ」
「じゃあお昼食べてから帰るか」
「うん」


手塚くんとお昼を食べるのはもうそんなに珍しいことではない。

だから今更動揺なんてしなかったけれど、外で食べるということもあり、プライベートに若干踏み込んでいるのではと思う気持ちもある。


斜め前の彼はそんなことなど気にも留めていないようだったが。
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