俺様アイドルが私の家に居座っている。
「だ、大丈夫ですか……」
「あ?……誰だ……お前……」
出会い頭にお前とは失礼なやつだが、熱に浮かされているのだろう、仕方がない。
ゲホッゲホッと咳をする彼を使用済みのタオルで軽く拭いた。
「どうしよう……」
橋の向こう、雨の降る方を見ると、さっきの勢いは随分となくなっている。
この人、放置したらどうなるんだろう。
もし万が一のことがあったら、私の責任になっちゃうのかなあ。
数秒考えて、決意した。
「立てますか?」
「あァ?……立てるに決まって……」
「あ、あぶないっ」
立ちかけて膝をつく彼を慌てて支えた。
仕方がないので肩を貸す。
「ゆっくりでいいですから」
「……あー、くっそ、暑い」
「すぐ着くので頑張ってください」
「すぐって……お前、オレ様をどこ連れてくつもりだ……」
「私の家です」
「……そーかよ」
オレ様とかいう信じられない一人称が聞こえた気がしたが、きっとこれも熱に浮かされているに違いない。
そうじゃなかったらやばい人だ。
「……変なやつだな」
「こんなところで倒れている人の方が変ですよ」
なかなかの身長差に四苦八苦しながら、そこまでの遠さはなかった自宅へ。
いくら病人とはいえ見知らぬ男を入れるのは正直抵抗しかなかったけれど、
あそこで見捨てるのはもっと抵抗があった。