俺様アイドルが私の家に居座っている。


二度目になる事務所への訪問。

前回と違い今回は出迎えはなかったが、
インターホンを押しても反応がないのは同じだった。
きっと壊れているのだろう。

意を決してドアを開ける。

暗い玄関、明かりのついた部屋からは男性の声。
手塚くんたちかな。


「こんばんは」
「時森」


ドアの向こうにいたのはニューアレのメンバーだけだった。
うち一人は爆睡している。

部外者が突然事務所に入るので緊張はあったものの、他のグループのメンバーがいないなら一安心だ。

……いや、ニューアレの人々が揃っているから、別の意味の緊張はあるけれど。


「時森さん、呼び出しちゃってごめんね」
「いえ、それで、用件は」
「ああ。コイツをどうにかしてくれ。最近ずっとレッスン室で眠られて迷惑なんだ」


いや、知らんし。

そんな表情が思いっきり顔に出たのか、手塚くんはため息をつき茶川さんは苦笑い。


「申し訳ないんだけど、俺たちも明日早くて、あまり怜にかまっていられないんだ」


言い方は優しいがだいぶ辛口、しかしその言い分はわかる。
明日の朝、情報番組に出演予定ということはチェック済みだ。


「……わかりました」
「助かる。じゃあ俺たちはシャワー浴びてくるから」
「うん」


ふたりきりのレッスン室は静かだった。
静かすぎた。


「怜、起きてるでしょ」
「……うるせーな。何しに来たんだよ」
「呼ばれたから来たの。さっきの会話だってどうせ聞いてたくせに」


チッと舌打ちをしてのそりと起き上がる。
長い前髪が彼の瞳を隠した。


「最近ここにいるんだって?」

隣に座る。少し長くなりそうだったから。

「ああ。お前に追い出されたせいでな。今月分の食費返せよ」
「ああ……そう、うん。それはちゃんとしなきゃね」


なけなしの現金を取り出していると、
後ろから声がする。



「お前、詩壇のこと好きなんだろ」

< 36 / 66 >

この作品をシェア

pagetop