俺様アイドルが私の家に居座っている。
「……え?」
「こんな夜に呼び出してくるヤツ、ロクなもんじゃねーよ。やめとけ」
「い、いや、なんの話?」
私の知らないところで勝手に解釈が進んでいた。しかも予想だにしない方向。
「私が? 手塚くんを? 好き?」
「そう言ってんだろ」
「いや、あの……どういった根拠から仰っている、発言でしょうか……」
「はあ? いや……お前、うちわ、」
「うん」
「兎だったし……」
「うん」
「俺の知らぬ間に知り合って、仲良くなってるし……」
「うん」
「挙句普通に連絡先知ってるのなんなんだよ。あいつのアプリの友だち親入れても一桁なんだぞ。どんだけ心開かれてんだよ!」
「そ、それは知らないよ」
友だち一桁も初めて聞いた。
周りに壁を作るタイプだとは思っていたけど、そこまでだったとは。
「お前も、俺に隠すし」
「隠してたんじゃないってば本当に……。
あのさ。怜、勘違いしかしてないよ」
「あ?」
「それ、全部勘違いだから」
「でもお前つぶやくことぜーんぶ兎束兎束兎束だよな」
「はっ!?」
突然すぎる爆弾発言だった。
つぶやく?
って、そんなツール一つしかない。
「あれ、兎束本人も知ってるんだよなー」
「人のアカウント勝手に見ないでよ!」
「エゴサは基本だろ。アイドルだぞ」
「それは実際のアイドルのイメージに対して語弊を生むから言っちゃだめ!
とりあえず手塚くんの連絡先知ってるのは向こうのためだから。私が必要以上に人の世話焼くのだって怜なら知ってるでしょ」
「じゃあうちわは?」
「それは……」
怜と目があったら、恥ずかしいじゃん。
「……とにかく! 全部勘違いだから。全部勘違いだよ」
私の弁解を聞き終えた彼は、こちらをまっすぐに見据えた。
そして口を開く。
「この前は悪かった。反省してる。お前に感謝だってしてる__だから、また拾ってくれ」
我慢と調教の日々が功を成したのか、少しは謙譲の仕方を覚えたらしい。
嬉しくなる。オレ様じゃない怜なんて、らしくなくて気持ち悪いけど。
私のために変わってくれたのかな、なんて、うぬぼれは自分の中だけにして。
「帰ろ。今からなにか作るの面倒だし、ピザでも買ってさ」
「……おう」
立ち上がるとちょうど二人が入ってきた。
一人は笑顔で、もう一人のお節介さんはやれやれ顔で。
どうやら聞かれていたらしい。
「あっ、でも怜は後から来てよ! いつ撮られるかわからないんだから!」
「お前まだ言うのかよ」
「あんたはプロ意識が低いのよ!!」
もう少しだけ、この関係を続けていたい。