俺様アイドルが私の家に居座っている。
時刻は十二時過ぎ、ぐつぐつとお雑炊を作っていた。
さっきの人は除菌剤を濡れるほど吹きかけた私のベッドで寝ている。
そろそろいいかな、と味見をするが、美味しくない。
なんともいえない美味しくなさ。
私は劇的に料理ができない人間だった。
美味しくないが作ってしまったものはしょうがない。
二皿よそって一皿はテレビの前のテーブル、もう一つは水と一緒に寝室へ。
「失礼しまーす」
襖を開けて電気をつける。
彼はお腹を出しながら大の字で寝ていた。
なめらかな素肌から視線を逸らす。
「……んぁ?」
「とりあえず温かいもの食べた方がいいかと思って。美味しくないけどどうぞ」
「……はァ? オレ様にまずいもんなんて食わせんじゃねーよ……」
眠たげな瞼を擦り、文句をつけながら雑炊を受け取った彼は大きく一口。
「マジでまずいじゃねぇか! なんだこれ!」
「あとこれ濡れタオル。頭に乗っける用。失礼します」
「なんでこんなの食わなきゃなんねーんだ……」
ボヤキを聞かなかったことにして襖を閉めた。
ようやく一息つける。
「疲れた」
思わずこぼれた言葉が静かな部屋に響いた。
それがなんとなく嫌で、隣に病人はいたけれど、気にせずテレビをつける。
CDチャートの番組。
まあいいかとチャンネルはそのままで、本当に美味しくない雑炊に手をつけた。
本当に美味しくない。
「……ん?」
どこかで聞いたことのある声。
が、歌ってる?
テレビに目をやって驚いた。
寝室に視線を移す。
「……まさか……」
似ている気がした。
スマホをバッグから取り出して、
テレビで歌うアーティストのグループ名を検索エンジンに打ち込む。
『NEW-aggressive』。
そこそこ大手事務所所属の三人組新人アイドル。
そういう方面に疎い私は全然知らなかったが、なかなか人気のあるユニットらしい。
「ニューアレねぇ‥‥‥」
ファンからはそう呼ばれているようだ。
公式プロフィールを見ると、どこか見覚えのある彼の名前は『有栖怜』。
ありすれい。
アイドルなだけあって、やはりかっこいい。
と、年齢が18歳って。同じだ。
身長差もさっきの肩組んだ時の苦労さからこれぐらいだし、
とか、
この身長なら服のサイズとか……。
画像検索をかけて、上がりそうになった大声を手で押さえる。
本人、としか思えない。
顔を確認したい気持ちに襲われる。
でも絶対違う。
そんな、アイドルが橋の下で高熱のまま倒れているわけがない。
普通の人だってそんなことになる状況にないのに。
そうわかっているのに、私は自分の好奇心を抑えられない。
もしあの人が、有栖怜だとしたら。
私たちの出会い方はまるで__
鶴の恩返しの主人公のような気持ちに耐えきれず、
私はそっと襖の間から彼の様子を伺った。
ベッドの上ですやすやと眠る彼は先ほど出てきた画像と完全に一致している。
まずいと言っていたお雑炊は空になっている。
あれ、全部食べてくれたんだ。
静かにお皿を回収して洗う。
冷静なフリをして、内面は大混乱だった。
来客用敷布団を出して頭までかぶって、落ち着け落ち着けと念じる。
拾った人が芸能人だった。
しかもアイドル。
そして同い年の男の子。
パニックだったのに、目をつぶっていたらいつの間にか寝ていた。
デリケートという言葉は、きっと、私が世界で一番似合わない。
さっきの人は除菌剤を濡れるほど吹きかけた私のベッドで寝ている。
そろそろいいかな、と味見をするが、美味しくない。
なんともいえない美味しくなさ。
私は劇的に料理ができない人間だった。
美味しくないが作ってしまったものはしょうがない。
二皿よそって一皿はテレビの前のテーブル、もう一つは水と一緒に寝室へ。
「失礼しまーす」
襖を開けて電気をつける。
彼はお腹を出しながら大の字で寝ていた。
なめらかな素肌から視線を逸らす。
「……んぁ?」
「とりあえず温かいもの食べた方がいいかと思って。美味しくないけどどうぞ」
「……はァ? オレ様にまずいもんなんて食わせんじゃねーよ……」
眠たげな瞼を擦り、文句をつけながら雑炊を受け取った彼は大きく一口。
「マジでまずいじゃねぇか! なんだこれ!」
「あとこれ濡れタオル。頭に乗っける用。失礼します」
「なんでこんなの食わなきゃなんねーんだ……」
ボヤキを聞かなかったことにして襖を閉めた。
ようやく一息つける。
「疲れた」
思わずこぼれた言葉が静かな部屋に響いた。
それがなんとなく嫌で、隣に病人はいたけれど、気にせずテレビをつける。
CDチャートの番組。
まあいいかとチャンネルはそのままで、本当に美味しくない雑炊に手をつけた。
本当に美味しくない。
「……ん?」
どこかで聞いたことのある声。
が、歌ってる?
テレビに目をやって驚いた。
寝室に視線を移す。
「……まさか……」
似ている気がした。
スマホをバッグから取り出して、
テレビで歌うアーティストのグループ名を検索エンジンに打ち込む。
『NEW-aggressive』。
そこそこ大手事務所所属の三人組新人アイドル。
そういう方面に疎い私は全然知らなかったが、なかなか人気のあるユニットらしい。
「ニューアレねぇ‥‥‥」
ファンからはそう呼ばれているようだ。
公式プロフィールを見ると、どこか見覚えのある彼の名前は『有栖怜』。
ありすれい。
アイドルなだけあって、やはりかっこいい。
と、年齢が18歳って。同じだ。
身長差もさっきの肩組んだ時の苦労さからこれぐらいだし、
とか、
この身長なら服のサイズとか……。
画像検索をかけて、上がりそうになった大声を手で押さえる。
本人、としか思えない。
顔を確認したい気持ちに襲われる。
でも絶対違う。
そんな、アイドルが橋の下で高熱のまま倒れているわけがない。
普通の人だってそんなことになる状況にないのに。
そうわかっているのに、私は自分の好奇心を抑えられない。
もしあの人が、有栖怜だとしたら。
私たちの出会い方はまるで__
鶴の恩返しの主人公のような気持ちに耐えきれず、
私はそっと襖の間から彼の様子を伺った。
ベッドの上ですやすやと眠る彼は先ほど出てきた画像と完全に一致している。
まずいと言っていたお雑炊は空になっている。
あれ、全部食べてくれたんだ。
静かにお皿を回収して洗う。
冷静なフリをして、内面は大混乱だった。
来客用敷布団を出して頭までかぶって、落ち着け落ち着けと念じる。
拾った人が芸能人だった。
しかもアイドル。
そして同い年の男の子。
パニックだったのに、目をつぶっていたらいつの間にか寝ていた。
デリケートという言葉は、きっと、私が世界で一番似合わない。