俺様アイドルが私の家に居座っている。
『俺のこと好きか?』?
頭の中でこだまするけれど、一体どういう意味で言われているのかわからない。
好きか、なんて。
好きじゃなかったらこんなに深く関わらない。
でもなんとなく、そういうことではない気がした。
口をパクパクさせる私にゆっくり近づいてくるから、そのまま固まってしまう。
そっと後頭部に触れられて引き寄せられる。私の頭はトン、と彼の胸に収まった。
詩壇くんの心臓の鼓動が伝わってくる。
「し、しだ……」
「好きだ。返事はいらない、付き合えないから。でも、お前が好きだ」
そんなこと言われたって。
言われたって。
私が君を好きだなんて、もうわかりきっているくせに。
ずるいじゃんか。
自分勝手だよ。
「……じゃあ。気を付けて帰れよ」
「え、まっ!」
すぐそこには私が利用している地下鉄の出入り口。
詩壇くんの姿はすぐに見えなくなって、私はただ呆然と立ち尽くした。
「な、なんだったの……」
なんだったもなにも、順当に考えれば告白以外の何物でもないのだけれど。
このときの私は、なににも気付けなかった。
首の後ろをかすめた冷たい指先が、体温にかき消されていく。