俺様アイドルが私の家に居座っている。
「誰? 俺出るけど」
「いいいいいい! 私出てくる!」
眠たげに目をこする彼を止め、私は玄関に走る。
ドアを開けると、結構な薄着で、変装もしていない怜が立っていた。いたずらな笑みを称えている。
「よっ」
「いや……違うじゃん……」
「あ、あけおめ」
「違う!!!」
「なんだよ、新年初有栖怜サマだぞ? もっとありがたがれよ」
「ねーちゃんどうし……うわあああああああああああ!? え、え、え!? 有栖怜!? 本物!? やべー、かっけーーー!!」
不審に思ったのか玄関に来た圭斗は、怜が望んでいただろう反応をすべて行って腰を抜かした。
驚愕、興奮、尊敬。
「お前の弟?」
ほら、満足げな顔。
「そうだよ。圭斗」
「圭斗か。圭斗、見る目あんな」
「あ、あ、あ、あり、ありがとうございます!!! ねーちゃんどうしよ俺大学落ちる?」
「不謹慎なこと言わない! 怜ぐらい誰だって会えるから!」
「対してお前は失礼なやつだな……」
落ち着かない圭斗と調子に乗りそうな怜に挟まれて、なんだか朝から体力を消費した。
寒いからとドアを閉めようとしたら、圭斗がこのまま初日の出を見に行こうと言い出して、三人で個人的絶景スポットに向かう。
薄着の怜には勝手に父のコートを着させた。
ほんのりと明るくなってきた空を見上げ一息つく。
「で、あなたにはいろいろ聞きたいことがあるんですが」
「ん?」
「なんで怜さんがここに? 姉と知り合いなんですか?」
「ああ」
そんなこと、と言いたげな怜。
こちらを一瞥して口を開く。
「こいつ俺と同き」「兎束壇! 兎束壇わかる!? 彼と同じ大学で、紹介してもらったっていうか! そういう縁!!」
「なんだよー、早く教えてくれよそういう大事なことは」
「ごめんね、さすがにアイドルと知り合いなのはあんまり言えないからさあハハハ」
乾いた笑いで誤魔化しつつキッと怜を睨む。彼は不機嫌そうな顔をしている。
「ここまではどうやって?」
「ライブ終わって、打ち上げして、マネージャーに近くまで送ってもらって、始発鈍行に乗ってきた」
「いや鬼……」
打ち上げでマネージャーに飲ませないのは鬼のすることだ。
さすがに同情する。
「なんて言って送ってもらったの?」
「俺達の今後のために初日の出を見に行く。
俺がそんなこと言い出したからマネージャー泣いてた」
笑う彼、私の頬がひきつる。ニューアレのマネージャーにだけは絶対になりたくないな。
「てか、なんでうち知ってるんすか」
「あーいや、それは……普通に沙良からきいたことあってな」
「そうなんすね。それにしても生で怜さんに会えるなんて感激だなあ……
」
アホな弟でよかったと、この時ほど思うことはもうないだろう。
どうにか偏差値とこのIQの低さが直結しないでくれと願うばかりだった。
本当は転送されてきたDMに住所があったとか、そんなんだろうけど。