【短】キミの髪を、ほどきたかった。
それに……近い。
気づけば彼の両腕は、私の机上に置かれている。事もなげに。
「理由は色々……振ったのは私、だけど」
「だけど?」
「当分は、思い出しちゃいそう……かな」
そうさせるのは、2人で過ごした月日だけじゃない。
「ふーん……なんで?」
俯く私を覗き込む瞳。
それは少しだけ虚ろで、真っすぐだった。
「……私ね、彼に合わせて決めたの。専門の場所」
幸にしか話していない秘密を滑らせたのも、きっとその瞳のせいだ。
「美容の専門なんて、どこにだってあるのに。わざわざ神奈川にしてさ」
『研究室の兼ね合いで、院に行くまで相模原に住むんだ。俺』―――
そう聞いた私は、志望先を一新した。
考えもしていなかった、他県への進出に。
あまりに不純な動機すぎて、幸以外の誰にも、このことは言えていない。
「バカだよね……ダメになる可能性なんて、考えてなかった……私から振ったのに、ほんとバカみたい」