【短】キミの髪を、ほどきたかった。
から笑いする私を見据える伝馬は、何も言わない。
バカすぎて、慰めようもないのかもしれない。
「幸は静岡に残って、部活仲間はみんな……名古屋なんだって」
彼だけが繋ぎだった。
勉強が苦になっても、新しい環境についていけなくても、彼がいれば平気だって……。
本気でそう、思ってたよ。
「いまさら寂しいなんて……自業自得すぎる」
鼻がツンと痛むのは、思い出の沁み込んだ、この教室にいるせいだろうか。
たくさんの"解らない"を刻んだ黒板も。
砂まみれの体育祭で撮った、もみくちゃの集合写真も。
どうしても真っすぐにそろわない、机と椅子も。
来週を過ぎれば、別の誰かのものに変わる。
そんな当たり前のことが、こんなにも……
「1時間6分」
「……え?」
すると突然、目の前にスマホが光る。
「遠くないじゃん」
伝馬が掲げた画面には、"路線案内"なるものが映し出されていた。