【短】キミの髪を、ほどきたかった。
新横浜から、浜松までの最速……。
「いつでも還れんじゃん」
画面の奥で、端麗な表情が綻ぶ。
……らしくない。
私のことを、こんな風に励ますなんて。
「ふふっ……そうだね。まぁ、特急券なんて買うお金ないだろうけど」
「それなら高速バスで……4時間弱、だな」
「え?意外とそんなもん?」
「うん、ほら」
前のめりになって、釘付けになる。
「それにしても静岡って、ほんと横に広いよ……ね」
そして、言い終える前に気がついた。
夢中になって、息が当たるほどの距離まで近づいていたことに。
スマホが壁になっていなかったら……なんて、邪念が過る。
誰もいなくて、本当によかった。
「ご、ごめ……んっ」
早く離れなきゃ。
そうして距離を取ろうとする私の頬に、何かが触れる。
「てん……ま……」
「ん……なに?」
どうやらそれは、長い指の裏のようで。
とぼけた彼の爪が、私の輪郭をそっとなぞる。