【短】キミの髪を、ほどきたかった。
瞬間、心が落ちる。
そもそも、この手を振り払えない時点で……おかしいじゃん、私。
「俺はね……」
言いながら彼は、再び滑らせる。
息が……止まりそう。
「秘密」
そして、小さく目を細めながら覗く伝馬。
……すごく、嬉しそうだ。
「……ばか」
「うん……知ってる」
―――……最後。
彼が触れたのは、私の毛束。
3年間、1度も下してこなかった。
校則と指定のゴムに縛られた、ひとつ結びの先端。
「俺はばかだよ」
……伝馬?
俯いていた私は、その言葉で顔を上げた。
視線の先には、眉を下げて笑う彼。
「なんでずっと……奪えなかったんだろう」
世界が、廻りだす。
思い出の詰まった、この、小さな小さな箱の中で。