【短】キミの髪を、ほどきたかった。
She already
3月1日。
透明に澄んだ風が、結った髪を静かに撫でる。
「最後となりますが、学園の更なる発展をお祈りしつつ、答辞の言葉とさせていただきます」
壇上に立つ幸と、揃って礼を重ねる私たち。
きっとみんなが、それぞれ想いを抱えて前を見据えている。
そんななか、私はある人物から目が離せない。
『なんでずっと……奪えなかったんだろう』
一週間前の放課後。
意味なんて聞けずに残った、あの言葉。
スラッと伸びた斜め前の背中を、ぼうっと見つめる。
無駄に似合うあのブレザー姿も、今日で見納めか。
「ほんと、学ランじゃなくてよかったよなぁ芳」
卒業式を終えた後の教室で、男子たちが彼を囲む。
「ブレザーだと、第二ボタンの代わりってなんになるんだ?」
「あれじゃね、ネクタイ」
「そんなことよか、写真撮ろうぜ。ほら」
私は遠目でそれを見つめながら、喉を詰まらせた。