【短】キミの髪を、ほどきたかった。
――――――……
「……なんでいるの?」
職員室で野暮用を済ませた後。
幸に言われた通り教室に戻った私は、眉を顰める。
「何か問題でも?」
笑顔を貼り付けて首を傾げるのは、窓際の机にもたれた伝馬だ。
「そこ、私の席なんだけど」
「もう違うだろ」
「……」
そりゃあ、そうだけど……。
言い返すことが出来ずに、唇を噛みしめる。
「目、腫れてんな」
そんな私を、楽し気に覗き込む伝馬。
「最後だもん……泣くでしょ、普通」
「俺は泣いてないよ」
「でしょうね」
あんたが泣くところなんて、想像できないし。
心の内でそう付け加える。
「避けないんだ、俺のこと」
「え?」
「あんなことしたのに」
にやり。彼は口角を持ち上げた。
「……あんなことって」
「それ、俺に言わせたい?」
机から離れた伝馬は、ズイッと距離を詰める。
もう完全に彼のペースだと、私は悟った。