【短】キミの髪を、ほどきたかった。

そう、あの日。

時間と体力とお金を掛けて、彼を訪ねた私を……
親を騙してまで泊まりに行った私を、地の底まで落とした言葉。

「なんだっけ?家師庭教(かてきょ)の大学生、だっけ?」

「……そう」

「遠距離になって1ヵ月……親友に口裏合わせまで頼み、やっとの思いで彼に会えた少女。……そこに叩きつけられる、まさかの宿代」

「モノローグ風に言うのやめて、幸」

前の席で「えぇー」とごねる親友を睨みあげた。

「私だって協力したのにぃ」

「それは感謝してるけど……」

「で?結局別れてきちゃったんだ」

窓から(なび)く風が、彼女のショートボブを静かに揺らす。

「うん……てゆーか、紙きれ置いて朝イチで帰った」

「え?あ、そっか。その日には帰れないもんねぇ」

「……うん」

思わず視線をそらすと、幸は「あれれ」と覗き込む。

……だから嫌なんだ。私の親友は、勘がよすぎて。

< 2 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop