【短】キミの髪を、ほどきたかった。
そう、あの日。
時間と体力とお金を掛けて、彼を訪ねた私を……
親を騙してまで泊まりに行った私を、地の底まで落とした言葉。
「なんだっけ?家師庭教の大学生、だっけ?」
「……そう」
「遠距離になって1ヵ月……親友に口裏合わせまで頼み、やっとの思いで彼に会えた少女。……そこに叩きつけられる、まさかの宿代」
「モノローグ風に言うのやめて、幸」
前の席で「えぇー」とごねる親友を睨みあげた。
「私だって協力したのにぃ」
「それは感謝してるけど……」
「で?結局別れてきちゃったんだ」
窓から靡く風が、彼女のショートボブを静かに揺らす。
「うん……てゆーか、紙きれ置いて朝イチで帰った」
「え?あ、そっか。その日には帰れないもんねぇ」
「……うん」
思わず視線をそらすと、幸は「あれれ」と覗き込む。
……だから嫌なんだ。私の親友は、勘がよすぎて。