【短】キミの髪を、ほどきたかった。

「あげる」

「……え?」

「高松のためにとっておいたから、それ」

私の、ため……。
器用に締められたそれを手に取り、見つめる。

「意味、わかる?」

瞬間、身体の奥からカァッと熱がこみ上げた。

「ははっ、顔真っ赤。可愛いなぁ」

「か、からかわないでよっ……」

「からかってないって」

言いながら、彼はネクタイの結び目に手を掛ける。

「ずっと、(ほど)きたかった」

そして控えめに、クイッと私を引き寄せた。

「……っ」

鼻にかかる、彼の吐息。
あぁもう……また、伝馬のペースだ。

「もっと早く別れてくれればって、思ったよ」

「え……?」

「卒業間際(まぎわ)(かせ)外してくるなんて……ほんと、ずるいよ高松」

至近距離で、目尻が下がる。
すると今度は反対の手で、後ろの毛先をスルリと撫でた。

ひとつに束ねた、長い髪を。

「これ、俺が解いてもいい?」

「これ……?」

「髪」

耳元で告げられたそのたった2文字に、肩が上下した。

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