【短】キミの髪を、ほどきたかった。

「もしかしてさ……その夜、流されて……っちゃった?」

耳打ちされたその言葉に、頬が赤く染め上がる。

「ちょっ……誰かに聞かれたらどうすんのよっ……!!」

「全くもう~、千歳は流されやすいからなぁ。怒りがあとでやってくるタイプ、っていうの?」

「ちがっ、わないけど、ちょっと黙って」

悟りすぎだし、言い過ぎだ。
これ以上の粗相がないように、私は幸の口を塞ごうと手を伸ばした。

そのとき。

「誰がやっちゃったって?」

上から響く低い声に、背筋が凍る。
……最悪だ。

「あ、伝馬(てんま)くん。おはよ~」

「おはよ」

幸に挨拶を返した後、欠伸を済ませて席に着く。
その男は、伝馬(てんま) (かおる)……私の隣人である。

「……いつからいたの……?」

「ん、さっき」

「聞いてた?」

「聞いてた」

頬杖を突きながら、流し目でこちらに笑いかける彼。

スッと通った鼻筋も、男の割に長いまつ毛も、今はどうにも憎たらしい。

< 3 / 24 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop