【短】キミの髪を、ほどきたかった。
「もしかしてさ……その夜、流されて……っちゃった?」
耳打ちされたその言葉に、頬が赤く染め上がる。
「ちょっ……誰かに聞かれたらどうすんのよっ……!!」
「全くもう~、千歳は流されやすいからなぁ。怒りがあとでやってくるタイプ、っていうの?」
「ちがっ、わないけど、ちょっと黙って」
悟りすぎだし、言い過ぎだ。
これ以上の粗相がないように、私は幸の口を塞ごうと手を伸ばした。
そのとき。
「誰がやっちゃったって?」
上から響く低い声に、背筋が凍る。
……最悪だ。
「あ、伝馬くん。おはよ~」
「おはよ」
幸に挨拶を返した後、欠伸を済ませて席に着く。
その男は、伝馬 芳……私の隣人である。
「……いつからいたの……?」
「ん、さっき」
「聞いてた?」
「聞いてた」
頬杖を突きながら、流し目でこちらに笑いかける彼。
スッと通った鼻筋も、男の割に長いまつ毛も、今はどうにも憎たらしい。