【短】キミの髪を、ほどきたかった。
件の彼も、この伝馬も。
同じイケメンという部類に入るのだろうが、雰囲気は全く違う。
伝馬は少しだけ、なんていうか……黒い。
「忘れてください」
「うーん、どうしよう。あぁ……俺、ちょっと喉乾いたかも」
ほら、黒いでしょう。
「えっ……ちょ、ちょっと待って」
条件反射で、すぐに小銭入れを確認してしまう私も私だ。
「……95円」
「ぷっ……」
残金が米粒程度の私を、再び笑う幸。
「もしかして、それで打ち上げ行こうとしてた?」
「いや……打ち上げ費は先に払ってあるし……」
「それにしたって……」
彼女の笑い声が、乾いた教室に響き渡る。
ついには「ん?なになに?」と周りもざわつき始めた。
卒業間近にこんな注目の浴び方をするなんて……本当にご勘弁だ。
そう頭を抱える私に
「じゃあいいよ」
と、伝馬の声が降る。
「え?」
もしかして、無償で忘れてくれるの?
黒いくせに、たまにはいいところあるじゃない。
彼に向けた心の声。
それを返してほしいと願ったのは、わずか数秒後のこと。