【短】キミの髪を、ほどきたかった。
「喉が渇いたとは言ったけど、忘れるなんて言ってないし。ねぇ、倉橋さん」
「そうそう。伝馬くんの言う通りだよ」
詰んでいる。
そう……この席になった瞬間に、私は詰んでいたんだ。
前にも悪魔、横にも悪魔。
でも、このとき。神は私に微笑んだ。
キーンコーンカーン―――……
午前8時30分。本鈴が鳴り響く。
と同時に伝馬は
「あぁ残念」
わざとらしくそう言いながら、私の机にコトンと置いた。
飲みかけの、ミルクティを。
って……もう、ほぼ飲み干されてるし。
嫌味っぽく光る滴を見つめながら、私は思う。
間接キスなんて……久しぶり。
「高松」
「……なに」
「髪、伸びたな」
そして、知りもしなかった。
「そう?」
「うん」
後ろで結わいた私の髪を、見据えて言った。
彼の言葉の意味……なんて。