地味OLの憂鬱~私は仕事に生きたいのに、三人からのアプローチにタジタジです!!

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夜になり暑かった昼間とは違い、涼しい風が頬と髪を後ろへなでていく。

玲奈はボーッと家の窓から見える星空を眺め、昔のことを思い出していた。



「うえーーーーん」

「どうしたの?」

心配そうに顔を覗き込んでくる男の子。

「うっ……えっ……ころんじゃって……」

「大丈夫?僕は優人。立てる?」

「うん」

差し伸べてくれる手をとり、見上げると優人の背に青い青い空が広がっていた。

小さな玲奈の瞳に映る優人は王子様に見えた。

「わーー。青空の王子様だーー」

それが二人の出会い。

玲奈の初恋だった。

玲奈はそれから優人に会うたびに後ろをついて回り、優人も可愛い玲奈がチョコチョコと、ついてくることが嬉しいらしく、楽しい時間を過ごしていた。

それから大学生になり優人との婚約が決まった。

大学を卒業したら優人さんと結婚する。

大好きな優人との婚約が決まり幸せだった。



月日は流れ、大学卒業を目前に控えたある日、聞いてしまったんだ。

大学のキャンパス内で楽しそうに話している女子大生の後ろを通りかかったその時……自分の名前が聞こえてくるのを……。

「A&Bの優人様と玲奈さんの話聞いた?婚約って親同士が決めたらしくて、優人様乗り気じゃないんだって!!」

「だったら私達にもチャンスあるかなーー?」

「でも、婚約してるなら結婚するんでしょ?」

「そう。だから愛されない本妻!!外に愛される愛人!!」

「愛されないお飾りの本妻なんてかわいそーー」

「たしかにーー」

「愛される愛人に立候補したい!!」

「「「キャーーーー」」」


キャーキャー騒いでいる学生たちの声がだんだんと遠くなっていく。

うそっ……。

フラつく足取りで何とか大学の門までやって来たとき、赤いスポーツカーが止まっていることに気がついた。

優人さん?

優人さんから本当のことを聞きたい。

そっと優人に近づいていくと何人かの女子大生に囲まれ、困った様に眉を寄せる優人がいた。

「優人様は家の為に婚約したって、本当ですか?」

「ん?ああ、そうだよ」

顔の表情を変えずにサラリと答える優人。


目の前が真っ暗になり、底なし沼に体がズルズルと引き込まれる様な錯覚を覚える。

え……。

そんな……。

優人さんも私に好意があると思っていた。

思い込んでいた……。

言われてみれば、可愛いと言われても、好きだとは言われたことが無い。

愕然とした。

自分が惨めで仕方が無かった。

締め付ける胸を押さえながら前を向いて歩こうとするが足がもつれて、なかなか前に進まなかった。

それでも何とか家までたどり着いたが、どんな道のりで帰ってきたのかわからない。

ベッドに潜り込むと枕に涙がしみ込んでいく。

優人との婚約は親同士が決めたものだ。

親に泣き声を聞かれる訳にはいかない。そのため声を上げて鳴くこともできない。

玲奈は枕に顔を埋めて、声が外に漏れないよう、奥歯を噛みしめて泣いた。

それが辛かった。


何で……。



どうして私は……愛されない。



大声で泣いて、わめき散らしたかった。


「うっ……っ……くっ……」


悲しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。


声を殺して泣くと、体に力を入れ呼吸を止めるため、だんだんと呼吸のタイミングが分からなくなり苦しくなる。


「……っ……くっ……」


苦しい……。


この苦しさは胸の痛みから来る物ものなのか、それとも呼吸の苦しさなのか分からなくな
る。

好きな人に好きになってもらえないことが、こんなに悲しいことだなんて……

知らなかった……。

その日は泣き疲れて、いつの間にか眠ってしまっていた。



そして玲奈は大学卒業後すぐに結婚はせずに、仕事をしたいと伝えた。両親はあまり良い顔をしなかったが、優人は了承してくれた。

望まない結婚なら先延ばしにできて、都合が良いわよね。

それから私は仕事に生きると決めたんだ。




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