地味OLの憂鬱~私は仕事に生きたいのに、三人からのアプローチにタジタジです!!

「俺は富沢家の長男なんだぞ。分かって言っているのか?」

この人富沢社長の御子息だったのね。

社長は真面目で良い方なのに……。

「存じ上げませんでした。それで…そちらのスーツはご自分でお買いになった物なんですか?お仕事は何を?」

「俺は仕事なんかしていない、富沢家の長男だからな、そのうち社長になる。仕事なんかしなくても大丈夫なんだよ。まぁ……庶民にはわからないか」

玲奈は汚い物見るような冷たい瞳で瑛人を見てから、目をそっと閉じた。

「そうでしたか……富沢家も、もうお終いかもしれませんね」

「なっ……お前ふざけるなよ」

瑛人が怒りをあらわにし、叫んだとき後ろから一人の男性がやって来た。

「瑛人どうしたんだ。大きな声を出して」

「父さん!!こいつが富沢はもうお終いだと言ったんだ」

息子の指の先にいた玲奈を見て富沢社長は蒼白した。

「れ……玲奈さん、家のバカ息子が何かしましたか?」

「ええ……そうね。御子息、お仕事されていない様ですね?富沢社長にはわたくしもお世話になったので信頼していますのよ。でも……代替わりなさった時、御子息が今の状態なら、わたくし……即刻、富沢を切り捨てますわ」

富沢社長は額に流れる汗をハンカチで拭きながらペコペコと頭を下げだした。自分の父親が頭を下げる姿に瑛人はギョッし、目を見開いた。

「申し訳ありません。これから息子には勉強させるしだいです。それでもダメなら息子は切り捨てます」

「なっ……父さん!!何言ってんだよ!!こんな女に頭まで下げて」

「バカもん!!こちらのお嬢さんは、一条グループのご令嬢で一条玲奈様だ!!お前が軽々しく話をして良い方ではない!!」

周りで聞き耳を立てていた人々は驚き、玲奈を中心にザッと後ろへ一歩引いた。

瑛人はただただ立ち尽くし、口をパクパクと動かしていった。玲奈はそんな瑛人を気にも留めない様子で萌の前までやって来ると、萌を出口へと促した。

「それでは富沢社長、みなさんご機嫌よう」

玲奈は不敵な笑みを浮かべて萌と共に会場を後にした。皆はそんな玲奈の後ろ姿を入り口のドアが閉まるまで、唖然と見つめ続けていた。



パーティー会場の外に出た途端、萌は「ありがとうございました」と頭を下げた。


「ここは戦場よ。みんな上辺では談笑し、笑い合っているけれど心の中では相手の腹を探り合っている。私達は子供の頃からそれに対抗する術を学ぶの」

「そうなんですか……」

先ほどの令嬢達とのやりとりを思い出し、萌はブルリと震えた。

「でも……よく泣かずに頑張ったわね」

にこりと微笑み萌の頭を優しくなでてやると、今まで我慢していた萌の瞳から涙が堰を切ったように溢れ出した。

「うっ……っ……うえーーん」

子供のように泣く萌が可愛らしくて、ふふふっと笑いながら頭をなでていると、慌てた様子の涼と部長が走りながらやって来た。

「佐藤くんどうしたんだ?」

部長の言葉に泣きじゃくりながら振り返った萌は、部長の隣で目を見開き固まっている涼の姿に驚いた。まるで涼の周りだけ時間が止まってしまったかのように動かない。

「一条さん……」

やっと動いた涼の口から出た言葉に今度は萌が固まった。

涼の隣にいた部長は一瞬何を言っているのか分からないと言った具合だったが、ハッとして大声を上げた。

「えっ……一条さん……ええーーっ!!一条くんか?!」

いつもの地味OLとは違う玲奈の姿に驚く三人の後ろから優人が笑いながら近づいて来た。


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