地味OLの憂鬱~私は仕事に生きたいのに、三人からのアプローチにタジタジです!!
優人の変化
*
A&Bの百周年記念パーティーが終わり、優人は玲奈を会員制バーへと呼び出していた。会員制のバーは、入ってすぐの所にカウンターがあり、奥にはゆったりと寛げる個室もある。
バーの扉をゆっくりと開くと、落ち着きのあるジャズが耳に届き、大人の雰囲気を醸し出していた。
優人は玲奈をカウンターではなく、奥にある個室へと促した。
「今日は疲れただろう。個室でゆっくりしよう」
個室は少し薄暗くなっていて映画のような重厚感があり、さすが会員制バーといった雰囲気があった。
中に入り何もしゃべらない優人に視線を向けると、ニコニコと微笑む優人の姿があった。
「あ……あの優人さんどうしたんですか?」
「ん?綺麗だなと思って」
「えっ……」
優人はそっと玲奈の頬に手を滑らせた。それだけで玲奈の心臓はドクンッと高鳴っていく。
顔が熱く赤くなっていくのがわかる。
玲奈の反応に気をよくした優人がクスリと笑ったとき、バーに入ったとき頼んでおいたチーズの四種盛りが届いた。
「お待たせいたしました」
綺麗に飾り付けられたチーズがおいしそうに並んでいる。
お酒は優人がウイスキーのロックを玲奈はオレンジの色が綺麗なニューヨークを頼んでいた。
玲奈の前に、見た目も可愛らしいオレンジ色の逆三角のカクテルグラスが置かれた。ニューヨークと名付けられたそのカクテルは、柑橘系のさっぱりとした味わいで飲みやすいが、度数が少し高めのため飲み過ぎると次の日が大変なことになる。
冷静を装いグラスを口に運ぶと、すっきりとしたオレンジの香りが口に広がった。
玲奈がお酒を口につけているのを見た優人は、チーズの四種盛りに手を伸ばす。
「パーティーでは何も食べられなかったからお腹が空いただろう?ほら、口を開けて」
チーズの四種盛りの中からチーズの生ハム巻きを選ぶと、玲奈の口元まて持って行った。
えっ……まって……。
「あーん」しろってこと?
無理、無理無理無理無理ムリーーーー!!!!
しっ……深呼吸するのよ。
お……落ち着いて。
冷静に!!
「……私は子供ではないので自分で食べられます」
「そうかい……」
寂しそうな顔をする優人だったが、今日の優人は引き下がらなかった。
「でも……俺はきみを甘やかしたいんだ。ほら、あーん」
うーー。
何その寂しそうな顔……。
「あーん」しないとダメなの?
玲奈は恥ずかしさのあまり目に涙を溜めると、ギュッと目をつむり、勢いでチーズの生ハム巻きをパクリと食べた。
その時、勢い余って優人の指まで食べてしまい玲奈はフリーズした。
チーズと優人の指を口に含んだまま動けずにいる玲奈を嬉しそうに見つめながら、自分の指を玲奈の口から引き抜いた。
「美味しいかい?」
フリーズしていた玲奈は真っ赤になりながら、コクコクと頷いた。そんな可愛い反応をする玲奈を見つめ自分が止められなくなる。
「かわいい」
そう呟いた優人はチュッと玲奈の唇に触れるだけのキスをした。
玲奈は目を見開き、再びフリーズしてしまう。
何?
何が起きているの?
ドクンッドクンッと心臓の音が大きくなっていく。
やだ……何で……心臓の音がこんなに大きいの……?
頭の中をフル回転させても何が何だか分かれない。ただ心臓の音だけが大きく、早くなっていることだけはわかる。
玲奈の視線の先で優人が心配そうに眉を下げている。
「嫌だった?」
玲奈はブンブンと首を左右に振った。
嫌じゃない
嫌じゃないけど……。
心臓の音が邪魔をして何も考えられない。
「かわいい……。かわいい玲奈きみは俺の何?」
「・・・・」
俺の何って……?
私は優人さんの……?
玲奈はチーズの生ハム巻きを、ゴクリと飲み込むと、優人の質問の答えを必死に探し出した。
私は優人さんの……
「……婚約者?」
「そう、正解。忘れないで玲奈は俺のものだよ」
大きな音を立てていた心臓が、更にドクンッと大きく跳ねた。
優人は玲奈の髪の中に手を差し入れ引き寄せると、先ほどまでとは違う深いキスを始めた。
「……んっ……まって……まっ……優人さん……」
優人から離れようと玲奈はグイグイと胸を押してみるがびくともしない。激しいキスに瞳が潤み頭がボーッとしてしまう。
「そんな目で見つめないで、止められなくなる」
優人は苦しそうにはにかんだ。