地味OLの憂鬱~私は仕事に生きたいのに、三人からのアプローチにタジタジです!!
すれ違い
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急いでエレベーター前までやって来た優人の目に信じられない光景が広がっていた。
玲奈が涼に抱きしめられていたのだ。
「玲奈さん好きだ。俺にしときなよ、俺絶対に玲奈さんのこと大切にする。泣かせたりしない。幸せにするから」
何も言わず首を左右に振り続ける玲奈だったが、ゆっくりと上を向いたとき、涼の顔が玲奈に近づいていった。
優人は体中がカッと熱くなるのを感じ、感情のまま二人の前までやって来ると、玲奈と涼を引き剥がし、自分の腕の中に抱きかかえた。
「お前に玲奈はやらない」
髪を振り乱し走ってきた優人の姿に驚きを隠ず二人は、声を出すことが出来なかった。
どうしてそんなことを言うの?
優人さんは佐藤さんを選んだんじゃないの?
玲奈の瞳が涙で潤み、涼が声を荒げた。
「副社長!!玲奈さんを離して下さい。俺に玲奈さんをください」
「お前にはやらないと言ったが?聞こえなかったか?」
優人は玲奈を抱きしめていた腕に力を込めると、いつも穏やかな優人の口からは、信じられないくらい低い声が響いた。
「玲奈は俺のものだ」
「玲奈さんは物じゃない!!」
涼は優人の威圧に負けじと玲奈の前へと一歩出ると、右手を前へ差しだした。
「玲奈さんこっちへ」
玲奈は優人の腕の中で身じろぎ、離れようともがいていると、頭の上から甘い声が降ってきた。
ピクリと肩を震わせた玲奈は信じられず視線を上に向けると、今にも泣き出しそうな優人の顔がそこにあった。
「行くな玲奈、俺にはお前しかいない。お前だけだ、一生俺のそばから離れるな」
さっきまで沈んで冷たくなっていた心が、じんわりと温かくなっていく。
「好きだ玲奈」
うそっ……
ドクンッドクンッと鼓動が早くなり大きくなっていく。玲奈は胸を押さえ、鼓動の強さに耐えようとするが、その強さと音はどんどん大きくなっていった。
どういうこと……
幻聴?
にわかには信じられない状況に頭をフル回転させ、自分が今取るべき行動を考える。
玲奈の前に出された涼の手と、抱きしめられている優人の手、自分はどっちの手をとったらいいの?
考えているうちに自分の口から信じられない言葉が飛び出していた。
「優人さん、私はお飾りの本妻なんて嫌なの、私だけを愛してほしいの!!」
玲奈はスッと優人さんの腕の中から抜け出すと、涼の手を取ることもなくエレベーターに向かって走り出した。
玲奈は去り際、目を伏せると涼に向かって「ごめんなさい」と呟くように言葉を発した。
涼はスローモーションの様にエレベーターへと向かっていく玲奈の背中を見つめることしか出来なかった。