ミライデザイン
私を如月くんと呼ぶ人は、社内で1人だけ。
貫禄と器の大きさを感じさせる声に、自然と背筋が伸びる。
「九条社長、どうされました」
もう50歳は過ぎてるはずなのに、芯の通った佇まい。すらりとしたスタイル。几帳面にセットされた短めの髪。
ミライのことを曇りなく捉えそうな瞳によく似合う、眼鏡を掛けたその人。
私の中にある小さな綻びまで見つかってしまわないように、仕事ができる女の顔を、完璧にしてみせた。
「君にも紹介しておきたい人がいてね」
九条社長を振り返った時から気づいていた。
後ろに立つ、見慣れない顔。
20代後半から30代程度なのに、九条社長に引けを取らないオーラをみると、取引先の重役みたい。
「彼女が、例の?」
「人事報告書を作成してくれた、如月沙祈(きさらぎ さき)くん」
例のってなんのことだろうと思ったけれど、今朝の会議用にと頼まれて作成した人事報告書のことね。
若手社長のようなこの人は、会議の先方ってことか。
「如月です。いつもお世話になっております」
「こちらこそ。報告書のおかげで難攻不落に思えた会議もスムーズに進んだよ」
挨拶をすると、あたたかい微笑みと、絶対的なプラスオーラ。
短めだけどクセのある色素の薄い髪の毛が、どこかライオンを思わせる。
「それは…」
うちにとって良い会議だったのか、九条社長の表情を伺うと、目配せをして、まいったというように笑った。
「如月くんが心配することは何もない。
私の昔馴染みの息子で、今はグループ会社の取締役をやっているんだ」
「橘 玲央(たちばな れお)
双方でより良いものを作っていくつもりだよ。
来月から、よろしくね」
どこにいても目を引きそうだと。
確信するほどのエネルギーは、太陽みたい。