ミライデザイン
だけど。
「来月から?」
ってどういうことだろう。
確かに橘社長にお会いしたのは今日がはじめてだけど、今までもグループ会社として共に仕事をしてきてるのに、その言葉は不自然な気がする。
「デザイナーの伊吹 棗(いぶき なつめ)くん、うちに来てもらうことになったんだ」
「…え?」
不自然。
その理由を知らされて、自分の顔から表情が消えていくのを感じた。
目の前が真っ暗になるって、こういうことを言うのかもしれないと、会話とは関係のないことが頭に浮かぶ。
「それは、伊吹はうちから籍が外れるということですか。籍を外して、橘社長の会社にいくと」
瞳だけで頷く九条社長をみて、堪らず、出もしない唾を飲み込んだ。
「玲央の会社は、うちよりデザインに力を入れている。年内に大きい仕事も決まってる。
伊吹のデザイナーとしての才能を、最大限活かせると確信しての判断だ。
…代わりの採用、頼んだよ」
ーー 代わりの採用。
九条社長が言ってるのは、仕事のことだと十分知っているけれど、棗の代わりに入る人。
私にとって、棗の代わりなんてどこにもいない。棗以上なんてみつけられないのに。
代わりを探すなんて、無理だ。
"かしこまりました"
かしこまってもいないのに、言いたくもない言葉を返して、完璧な笑顔で話を終えた。
終えたかった。
会社が別々になったら、どれほどのことが変わってしまうかを、棗はわかっているの?
昨日は "結婚" なんて "ミライ" の話をしてきたくせに。こんなに大事な話を棗にされていなかったことがかなしい。
棗のミライには私がいない。
そのことを知らされた気がして、泣いてしまいそうだった。