ミライデザイン
「コーヒー、飲むでしょ」
昨日、棗が結婚のはなしを持ち出したことで、純粋な恋人同士という、私たちの関係は変わってしまった。
それなのに、昨日と変わらず、おそろいのコーヒーカップを2つみせてくる棗に、私ばっかりと思ってしまう。
私ばっかり、ごちゃごちゃしている。
なにかを決断した人はいつも、先にいってしまうから。
「…沙祈?」
おかえりといって、問いかけてきた棗をみつけたのに何も返さない私を、覗き込む、だいすきな瞳。
迷わずコーヒーカップを置いて、近寄って。やさしく腕にふれる大きな手に、オトナなんかでいられなくなる。
飲みこむために、左右に首をふったのに、あつくさえ感じる棗の手は、簡単にそれを阻んでしまう。
頬を包み込んでしまうそれ。奥まで入ってきてしまう棗の瞳は、私の心まで捕まえてしまうから。
「…なんで、話してくれなかったの。
結婚しようとまでいったくせに、棗のミライに私はいないの?」
「…あー」
打ち明けると、困ったような顔。
ゆるんで離れていってしまうぬくもりに、引き裂かれるような痛みがした。
離れて、いかないで。