ミライデザイン
仕事中に考えごとをしてるとき、前髪をかき上げる仕草がたまらなく好きだったけれど、今、それをみたくない。
棗のミライに私はいないのかと聞いた質問に、困って。答えを探しているのかと思うと、かなしくなった。
心が冷気に侵されていくみたいに、ひんやりと。
目を逸らすと、聞こえる小さな息づかい。
「話す順番、間違えた」
「……?」
「…昨日、プロポーズと一緒に話すつもりだったけど、もうあれ以上、沙祈の頭に詰めこみたくなかったんだよ」
「なに、それ…」
「入んなかっただろ?」
その気遣いは、勝手だよ。
猫みたいに自由で気ままなくせに、歩調をあわせるような繊細なやさしさをみせるなんて、ずるい。
ふたたび出会った猫目は、見透かすように私をみていたけれど。強さのなかに、棗が口にしない想いもみえる気がした。
「…結婚のことも、いい返事以外聞きたくなかったから。一回置くべきだと思っただけ。
誰かさんも、帰れっていうし?」
「…ごめん」
ゆずれなかったあの日の決意。
頑なになって背を向けた私と、棗の想い描く結婚感は、相いれないのかもしれない。
それでも、同じに変えようと。交わることしかみていない棗のキモチと、棗のミライに私がいることはうれしいなんて、おかしいよね。
「…棗はなんで、結婚したいなんて言い出したの。私が抵抗あるの、知ってたよね」
昨日、葉奈にいわれたコトバを思い出して、聞いた。
私が結婚に抵抗があることを知ってたはずなのに、どうして、どういうつもりで結婚しようといったのか。私たちのミライをどんな風に考えてるのか、知りたいと思ったから。