ミライデザイン
考えてみる。なんて、煮え切らない想いを返してから、瞬く間に時が流れてしまった。
棗は、引き継ぎ業務に追われていたし、私は私で、棗の除籍に伴う労務関係の手続きや、採用関連の手配に追われていて。
あの日以来、まともに向き合えていないまま、迎えたその日。
棗が、花束やら送別品を抱えていたのは、すでに昨日のことだ。
区切りを惜しむ社内の人たちに、1軒だけならと。長い夜への誘いをさらりと交わして、いたずらに私を共犯者にした、棗は。
段ボールを挟んだ向こう側で、今、あくびをしている。
「今日があるからって、主役の送別会、抜け出したくせに。夜更かしするから」
「沙祈も共犯だろ?ほんと朝強いよなー。ねみぃ」
気の抜けた棗の顔。
どことなくぼんやりしている姿は、無防備で。
しゃがんで気だるそうに、必要なものを段ボールに入れている猫みたいな棗に。
近づいて、頭をなでて、耳にふれて、その顔をみたい。なんて、衝動がふわり。
たしかに昨日は、実際にあの体温にふれて、ぬくもりを溶かしあっていたから。久しぶりに同じベッドで棗を感じられて、夜更かししてしまったけど。
「移動の準備しちゃわないと。九条社長、迎え手配してくれてるんでしょ?」
だけど、当日まで手が回っていなかった、移動に必要な荷物の準備を、迎えがくるまでの間に終わらせなくちゃ。