ミライデザイン
「よし、やるか」
「間に合わなかったら、棗の責任だからね」
満足したのか、スッキリとした顔をして腕まくりをする棗。
数分前には手こずっていた段ボールに向かう、マイペースな背中に、文句を言いながらも。
心に広がっていくのは、紛れもない愛おしさだけ。
「沙祈が誘うからだろ」
「棗の方が、先だった」
「へー?誘惑されたんだ?俺に」
「…っ!棗が1番、わかってるくせに」
私以外、知らない棗がここにはいて。
棗以外、知らない私も、たしかにここにいる。
気ままに笑う棗の、ありのままの表情や仕草をみていると、私たちの間には、柵なんてものは1mmもないように思えて。
棗のいう結婚が、こういうことの積み重ねの先に、みえる気がした。
「…あのさ、棗」
微かにのぞいた2人のミライは、穏やかで、あざやかで。愛が満ちている。
全てが、充分すぎるくらいに。
「ん?」
棗が振り返る。
なにげない、そんな、些細なことたちが。
私にとっては何にも変えがたい、尊い日常だと思い知る。
…小さく生まれたキモチを固めるには、それ以上のことなんて、きっとなかった。
「婚約のことだけど…」
受け入れてみよう。
こわがらずに、1歩踏み出してみようと。
デザイン関係の本を抱えていた手に力をいれたところで、迎えを知らせるコール音が、遠慮なく鳴った。