ミライデザイン
「まさか、橘社長がきてくださるとは。
お忙しい中での貴重なお休みなのに。
七星(ななせ)さんと、北斗(ほくと)さんも」
七星さんと北斗さんは、秘書でありながら九条社長のご子息でもあって。相変わらずの整った2つの顔は、性別が違うだけ。
黄金比率をカタチにしたような美貌と、モデルに引けを取らないスタイル。
「沙祈ちゃん絡みなら、いつでも飛んでくるよ?」
「ごめんね?北斗って、軽さが売りなの」
1つ1つのパーツはキリッとしてるのに、全く冷たく感じないのは、いつ見ても、どこかたのしそうだから。
「七星さん、必要以上に北斗さんが飛ばないように、リードしっかり握っててくださいね」
「えー?棗くんまで七星に乗っかっちゃうワケ?」
「もちろん。沙祈絡みなんで」
デザイン部の棗が、普段あまり関わりのない秘書課の2人とフランクに話せているのは、それだけ七星さんと北斗さんが、日頃から気さくでいてくれてる証拠というか。
いてくれるだけで、ふわっと空気が軽くなる。
そんな2人。
それでいて仕事もそつなく完璧にこなしちゃうんだから、さすが。
「…ところで。荷物詰めは、後どれくらいで終わる?」
「…!」
橘社長の言葉に周りを見渡すと、空の段ボールが2つ。
棗の荷物は、全部で5箱くらいしかない見込みなのに、半分と少ししか終わってない…
「10分で終わらせます!」
「えっ、沙祈ちゃんそれいける?せめて15分…」
「棗と私で本気出せば、いけます!ね、棗?」
「ま、詰めるだけだしな」
敏腕秘書の七星さんと北斗さんを連れて、橘社長が自ら足を運んでくれたのに、必要以上に待たせるなんてとんでもない。
それに、棗と私なら。絶対に。
信頼と期待を送ると、自信しかない余裕たっぷりな笑みが返ってきて、私の不安はゼロになる。
「問題なさそうだね。そしたら、私と北斗は、先に出来上がってる段ボールから車に乗せよう。
七星は扉開けたり、フォローよろしく」
言いながら、脱いだジャケットと車のキーを七星さんに手渡した橘社長が、軽く袖をまくって、晴れやかにわらった。
「パッと終わらせて、美味しいものでも食べに行こうか」