ミライデザイン
「沙祈(さき)」
「あ、もうきてたの棗(なつめ)」
カタカタっとキーボードを叩いていた手を止めて、声のした方へと振り向く。
棗はコーヒーカップを2つ手にしていて、色違いのシンプルなそこからは、ゆらりとほかほかの湯気があがっていて、今来たばかりでないことに気づく。
些細な私の表情の変化に気づいてか、近づいてくる棗はわらった。
「コーヒー淹れ終わるまでに気づくかなって思ったけど、いつも通り全くだったよ」
なんだかんだで許してくれるこのイタズラな笑顔に、私はずっと、愛されていたい。
手の届く距離までやってきた棗の手から、私の手の中へと渡されると思っていたコーヒーカップは作業机にやさしく置かれた。
顔の側を通ったコーヒーカップからふわっと湯気が香って、香ばしい匂いが私をくすぐる。
「…?」
不思議に思って棗を見上げると、
「まちくたびれた」
言葉のわりにたのしそうな、愛しい顔。
厚くも薄くもないキレイな形をした唇の端があがるから、大好きな猫目を覗きたくなった。
なのに、それにかかるサラサラの黒髪に邪魔されてしまう。
窓から差し込む光が反射して余計にみにくくなって、棗の前髪を整えようと手を伸ばすと、その手は簡単に捕まった。
「…わっ」
椅子に座っていた私の腰はよく知るその手に引き寄せられて、いとも簡単に体ごと棗の胸に。
私の伸ばした手を捕まえていた大きな左手も、気づけば右手と同じように、私の腰にまわっていた。
「沙祈不足」