ミライデザイン
橘社長がチラつかせた、"美味しいもの" の効果なのか、単純にメンバーが強いのか。
30分足らずで、最後の荷物を詰めた段ボールが、車のラゲッジスペースに乗せられて、バッグドアを締める音が、ひと段落を知らせる。
「第一ミッションクリア、かな」
荷物を運び終えた棗の後ろ姿を眺めていると、橘社長が隣にやってきた。
見上げると、誇らしげな顔で前をみていた瞳が、私の方を向いて笑う。
「橘社長自ら、舵を取ってくださったおかけです」
「舵を取る、なんて大げさだよ。
それに、大事な伊吹くんをもらうんだ。
異動の手伝いくらい当然だよ」
当たり前だと橘社長は笑うけど、普通は、社長ほどの人が、自ら社員の移動作業を手伝うなんてことはしないよね。
橘社長の人柄と、懐の広さに、安心感とうれしさがわいてくるように頬がゆるんだ。
「橘社長に声をかけてもらえて、棗はしあわせですね」
詰め込んだ荷物と一緒に、希望と可能性を背負った大好きな背中をみつめる。
「ん?どした」
察して振り返った棗。
仕事場でもプライベートでも、ずっと一緒だった棗と、はじめてできてしまう距離に、少なからず不安はあるけど。
棗にとってよかったと、素直にそう思えるから。
私は、支えになりたい。
「あとで、ね?
とりあえず移動しちゃお!」
2人きりのときに言えずにいた決心は、やっぱり2人きりのときに言いたい。
車の中でも、作業諸々がおわった後でも。
そう思って、棗の車に乗り込もうとすると、思いがけない方向から、腕を引かれた。
「沙祈くんは、私の車でいいかな?
仕事のことで大事な話があるんだ」