ミライデザイン
移動作業が全て終わったのは、夕方頃。
そこからお昼に続き橘社長の奢りで、夕食がてら軽くお酒を飲んだ帰り道。
車は会社の車庫に置いたまま。橘社長や七星さんと北斗さんがタクシーで先に出るのを見送ってから、私達もと続こうとすると、酔い覚ましに歩いて帰ろうと、棗が提案をした。
導いてくれる手は、よく知る温度で。
だからこそ気づけば、その手を離していた。
自分から離したくせに、離れていく熱がさみしくて。空っぽになった指先を追った。
「…なぁ、沙祈。何があった?」
「……っ」
立ち止まってしまった私を振り返った棗。
感情が素直にでるその顔は、たしかに心配してくれているのに、少しだけいびつで。やさしい声色に胸がぎゅっとなった。
無条件に安心できる足音が一歩一歩近づいてくるたびに、あまえてしまいたいのに、言わなければいけないことから逃げられない現実までやってくる。
「……あのね」
…本当は、橘社長の車を降りたときから、私の変化に気づく棗にも、理由を知りたがっている棗にも、気付いてはいた。
だけど、口に出すのがこわかった。
今だって、こわいまま。
……それでも。
「…私、出向になったよ。橘社長のところ」
私達が立ち止まっていたのは、川を架ける橋の上。
途端、下を流れていく水の音までも聞こえてくるような錯覚があった。
月明かりに照らされて、棗の猫目が色を変える。
「なに?橘社長に気に入られた?」
「ちがうよ。人事部強化したいんだって」
「ふーん。
なら、なんで沙祈がしんどそうなの。
いい話だと思うけど」