ミライデザイン
「橘社長………」
声のする方へ顔を向けると、異動してからの2ヶ月間、棗よりも近くでみてきたその人がいた。
「一瞬、泣いてるのかと思ったよ」
「……まさか」
「見間違いでは、なかったみたいだけどね」
「……っ」
涙の跡を私に知らせるように、自身の頬を指でなぞって笑う。
いつだって絶対的なプラスオーラを纏っている橘社長の、眉毛は下がっていて。
今だけは、社長というよりも、1人の友人のような表情をしていた。
……心をどれだけ許せてしまうか。
それは、一緒にいる時間に比例する訳ではないけれど。
異動してからの2ヶ月間、ほぼ2人3脚でやってきた橘社長に弱っている部分を指摘された途端、止まり掛けていた涙は、また、溢れそうになった。
そんな私に、「残りの仕事は引き上げて、飲みにでも行こうか」と、連れ出してくれた橘社長。
葉奈も誘ったけれど、受付の葉奈まで仕事を抜ける訳にはいかなくて。結局2人きり。
棗と付き合うようになってからは、男の人と2人きりで飲みに行ったり出かけたりするのは避けてきたけど、橘社長なら。
不思議とそう思えたから。
「なるほどね。最近君たちの様子に違和感はあると思ってたけど、そういうことだったのか」