ミライデザイン
自ら放棄するのと同じこと。
大切な、決断を。
橘社長にいわれたことが頭の中でリピートされて、理解して、ぞっとした。
「……それは、」
「イヤでしょ?」
「はい」
「こわくても、決断したいでしょ」
「しない方が、こわいですね」
大切なことに関する決断を、しない。
できないんじゃなくて、しない、ことと一緒。
理由は色々あったとして、自分の意思で手放しているようで。
ホラー映画よりもずっと、比にならないくらいの恐ろしさに、一気に喉の渇きを覚えた。
流し込んだアルコールと一緒に、何度も何度も頭の中をめぐって、私の中に落ちてくる。
比例して、決まっていくココロはただ1つ。
…棗との、ミライのために。
橘社長のパワーを分け与えられたみたいに、強く、前をむけた。
「善は急げ、ってね。食べ終わったら送るよ」
そんな私に満足気な顔をして、私がおいしいと喜んでいたお刺身をお箸で何枚かとって、私の小皿へと運んでくる橘社長。
この人のおかげで私は、大切なモノを失わずに済むかもしれないと。
葉奈とも、棗とも違う、人生のキーパーソンに出会えたような不思議な感覚に、私も箸をとって笑顔で返した。