ミライデザイン
橘社長と個室を出て、出口へと進んでいく途中、視界を流れていった何かに違和感を覚えて、ふと、歩みを止めた。
違和感の行方をたどると、引き寄せられるように、ピントの合ったそれ。
「……は?なんで玲央と?」
同じように私をみつけたらしい彼。棗が、声を掛けようと立ち上がる姿だった。
近づいてくる棗に、玲央じゃなくて社長でしょ、と。呼び名の指摘が音にならなかったのは、さっきまで棗が座っていた席の向かいに、長い髪を凛とひとつにまとめた女性がみえたから。
「…棗だって、七星さんと2人みたいじゃない」
迷うことなんてなさそうなキリッとした真っ黒な猫目は、棗に重なって、お似合いな気がして。
…目を逸らした。
七星さんは、たしかに会釈をしてくれたのに、一方の私は、それに応じる余裕さえないなんて。
頭の片隅で申し訳なく思ってはいても、今は、……むり。棗とのことだけで、頭がいっぱいだった。
すれ違ってしまってから、棗と話せる貴重な時間。大切にしたいのに。
感情のまま、キツくなってしまった口調に、言いながら後悔が襲う。
「俺らは普通に仕事のことだけど」
「……仕事に、飲みは必要?」
じゃあ、橘社長と私はと聞かれたら、返す言葉に詰まるくせに。自分たちのことは棚にあげて、突っかかってしまう。
だって、異動してからというもの、何故だか、橘社長の秘書であるはずの七星さんが棗のフォローに入っていて、2人は、いつも一緒だ。
彼女の私は、2ヶ月もまともに棗と向き合って話せていないのに、七星さんは、いつも。
加えて、仕事後に飲みにもなんて……なんで?
「…沙祈こそ、どうなんだよ?
仕事でもないわけ?」
「……っ」