ミライデザイン
思考が追いついていかずに固まる私を、現実に引き戻すように、外へと連れ出した棗。
春から夏へと変わっていく今の季節。夜風はまだ少し冷んやりとしていて、洗われるように頭の中もクリアになっていくのを感じた。
同時に、前を歩く棗のキモチが伝わってきそうなほどに、握り締められた右手の痛みを思い出す。
「棗、ごめん。手、ちょっと痛い」
「あ、わるい」
「…ううん。私こそ、ごめん」
立ち止まって、振り返った棗をみて、なぜだか胸がぎゅっとなった。
繋がれたまま力みが抜けた棗の左手は、私の右手を自分の顔へと寄せると、祈るようにおでこに当てて。そして、指先にキスを落とす。
「棗?まだ外だよ?
そこまでしなくても、指、平気だから」
それなりに私達も大人だから、TPOには気を遣う。
仕事帰りに飲み歩くサラリーマンやOLが多い21時過ぎのこの時間に、棗が人目も気にせず大胆なことをしてくることが、意外だった。
戸惑う私を、鋭い猫目が射抜いて。
「……玲央と2人。個室から出てきた」
棗の大胆な行動の理由(ワケ)を、自覚する。
「……それは」
思い上がりではなく、きっと。
棗は、橘社長と私が、2人きりでいることがイヤだったんだ。私が、七星さんに対して感じていたように。
くわえて、橘社長と私が会っていた理由が、仕事ではないことは、棗も察しているはずで。
そんな中での、別れ際の橘社長のヒトコトは、棗をどんなキモチにさせているか。
さっきまで、きしむほどに繋がれていた右手。
気づいて傷みを取り除くようにやさしく口付けた棗のぬくもりが、全てを教えてくれる。
「……棗とのことを、相談してたの」