ミライデザイン
できることなら、私と棗とのことを橘社長に相談していたなんて、言いたくなかった。
だって、私たち2人のことなのに。
棗じゃないヒトを頼ってしまったこと。橘社長の方が、棗よりも私のキモチを知っている、なんて。
今思えば、なんだか筋がちがう。
……棗も、イヤがるような気がしたから。
だけど今は、そんな心配をしてる場合じゃない。
不透明さをクリアにして、棗の不安や疑いを、ときたいと思った。
カクシゴトは、大切なモノを余計にこじらせるだけだから。
「…俺?」
案の定、棗は眉を寄せた。
なんで俺のことを玲央に、と。
文句まで聞こえてきそうなほどに。
曇りっぱなしの棗の表情をみて、こんな顔をさせたい訳じゃなかったのにと、思うキモチはあるけれど。
「棗を手放したくないから、一歩進みたい。
だけど、失いたくない分、こわくて。
……どうしたら決断できるかを、聞いてたんだよ」
橘社長のアドバイスがなければ、私の鉛のように重たかった足は、一歩も前に踏み出せなかった。
そして。
『沙祈くんが、私を選べば、望む関係をあげられる。……どちらがいいか、よく考えてみてほしい』
別れ際に投げかけられた問いに対する答えが、よく考える必要もないほどに、私の中にあり続けていたことに気づけたから。
「…それって、つまり?」
「棗と、一緒に住みたい。
結婚にむけて、進みたいよ」
うまくいくかなんて、わからない。
はじめてみない限りは、自信もないけれど。
何もしないまま、大事なものを失いたくない。
好きがなくなると嫌厭していた結婚についても、実際に、棗との生活にふれて、感じて、決めていけばいい。
わるい意味でも、いい意味でも、結婚に縛られすぎる必要はないと、そう思える。
私が望むモノは、いつだって明確で。
棗との、しあわせなミライだけなんだから。