ミライデザイン
きっと、何もかもわかっている橘社長が、穏やかに微笑んでエスコートしてくれる。
お茶、と題して、みんなから離れた場所へ私を誘ったのは、全てを察した橘社長のやさしい配慮。
言いづらいことを、少しでも軽くしてくれようとしていることが、よくわかった。
北斗さん、葉奈、一樹さんに目配せをして、場を離れようとした、その時。
コール音が、私を呼んだ。
棗から連絡が入るかもしれないと、サイレントを解除していたから、鳴ることくらい、予測していなかった訳じゃない。
なのに、ビクッとしてしまったのは、これから橘社長に、自分の答えを伝えようとしていた緊迫感からなのか。
それとも、約束の時間から20分くらい、過ぎていたことに気付いたからなのか。
……例え、仕事が押していたとしても、棗なら、過ぎるまえに連絡をくれそうだから、余計に、なのか。
なんとなく、電話に出たくないと思う。
それでも画面に表示される棗の名前に電話を受けると、
「沙祈さん?七星です。
至急、今から伝える病院に向かってもらえますか?
北斗にタクシーは手配させます」
棗の番号からかかってきたはずなのに、なぜだか七星さんの声がした。
しかも、病院って。
どういうこと?なんの話?
「あの、話が読めないんですけど……
病院って?どうして七星さんが、棗の番号から?」
大きくなっていくイヤな予感は、電話越しに聞こえる七星さんの声の奥で、レッドライトを思い浮かべるサイレンの音が聞こえていたから。
「落ち着いて聞いてくださいね。
伊吹くんが……」
ドクドクと波打つ鼓動、喉の渇き。
じっとりと、変な汗が、私を襲って。
その予感が確信にかわった時、頭が真っ白になった。