ミライデザイン
棗は、道路に飛び出した猫が車に轢かれそうになったのを助けて、代わりに事故に遭ったという。
容態は不明。
とにかく早く、病院に来てほしいとのことだった。
病院へと向かうタクシーの中、小刻みに震えて止まらない私の指先を、強く、葉奈が握ってくれていた。
自分の心音が響く度に煽られていく不安は、オーバーなものであってほしい。
きっと大丈夫。絶対大丈夫。
そう信じたくても、棗の元気な笑顔をみるまでは、不安の侵食をどうすることもできない。
「あの、伊吹棗の知人です。
事故に遭って運ばれたと聞いて……」
2台のタクシーで向かった病院。
みんなに支えてもらいながら、受付に声を掛けた。
病院独特の緊迫した雰囲気が、よくない予想を膨らませる。
「伊吹棗さん?あぁ、あの救急で運ばれてきた。
少々お待ちくださいね。今、検査中で、ご家族様以外はロビーでお待ちいただいているんです」
「そうですか…」
ご家族以外は。
例え、3年半付き合っていて、家族のような関係だったとしても、戸籍上は、他人。家族じゃない。
分かりきっていても、棗の安否が不確かな今、線引きされてしまうのは、残酷だなと思った。
朝、いってらっしゃいと手を振った。
また後でと、おでこにくれた唇。
棗らしく悪戯に笑った顔が、最期になってしまうのかと、考えたくもないのに考えてしまって、下を向いた。
「あの、彼女だけでも何とかならないでしょうか?
棗さんと婚約してるんです」