ミライデザイン
名前を呼ばれたのは、それから30分ほど経った頃。
表情のあまり読めない看護師さんに病室の前まで案内してもらうと、棗のご両親と、七星さんの姿。
「あ、ご無沙汰してます。棗は……」
「沙祈ちゃん。駆けつけてくれたって、七星さんに聞いたわ。私達はこれから棗の着替えを取りに行かなくちゃいけなくて。沙祈ちゃんは、棗のそばにいてあげてくれる?」
最後にお会いしたのはいつだったか、すぐには思い出せないほど久しぶりで。同棲の報告すら、まだちゃんとしていないことを思い出す。
なのに、私の心配を全て解っているかのような微笑みに、少しだけ、視界がゆれる。
「棗の着替えなら、私が」
「いいの!あの子が、誰よりもはやく、沙祈ちゃんに会いたいんだから。お部屋、お邪魔するわね」
そういって、棗から預かったと思われる鍵をかざしてみせる棗のお母さん。
七星さんや北斗さんの手伝いの申し出もさらりと断って、お父さんの腕を引き離れていく背中。
見送ってから、病室の扉に向き合う。
棗のお母さんは笑っていたし、お父さんだって、思い詰めたような顔はしていなかった。
たぶん、緊張感がほどけたような顔。
だから、最悪な状況ではないとは思うのだけど、扉1枚が、ひどく重たく分厚いものに見える。
先に、棗の容態を聞いてしまいたくて、七星さんをみると、音のない声で、「自分で確かめてみてください」と言う。
橘社長や北斗さん、葉奈や一樹さんにも聞こえていたのか、みんなの顔を見渡すと、同意するように返ってくる頷き。
「……っ」
意を決して掴んだドアノブは、ひんやりと。
扉は予想通り、知っているそれよりも幾分か重たく感じた。