ミライデザイン
「どうした、急に。
や、もちろん沙祈と結婚はしたいけど。
渋ってたじゃん、ずっと」
当然、私の口から言われることはないと思っている棗は、キツネにつままれたような顔をしている。
……私だって、こんなに急に、現実的に結婚したいと思えるなんて、予想はしてなかったけど。
「棗がいなくなるかもって思ったら、こわかった。
そんな状態が不安定なときに、棗の傍にいられないのがつらかった。
ケガの状態も、治療状況も、全部が不透明なまま、彼女だけど、家族と違って他人だからって、棗が検査してるはずの部屋の前にすら、いける権利はなくて。
……くやしかったの。
キモチがどんなに繋がってたって、たった一つ、法的な繋がりがないだけで、どれだけ自分が無力なのかを思い知ったから」
思い知って、胸が張り裂けそうだった。
棗には言わないけど、もし、万が一があったならと。最悪な事態まで想像した。
それこそ私は蚊帳の外で。
人生の中で最も愛おしいと感じる人の為に、私は他人として、泣くことしかできないのかと。
あくまでも手伝いという立場でしか、いられないのかと思ったら、堪らなかった。
堪らなく悔しくて、情けなくて、……痛かった。
私がこれまで理想に掲げていた "キモチの強い繋がり" だけでは、日本の法の上では脆いんだと。
恋人なんて、緊急事態の前では名ばかりだと。
……そのことを、身をもって感じた。
「……だから、結婚して、棗。
退院したらすぐにでも、伊吹になりたい。
棗と、家族になりたいの」
突きつけられた "他人" という壁に、すぐにでも棗と家族になりたいと思ったの。
この先のミライ、最期のときまで、傍にいたい。
ヒトリじゃないよと手を握っていたい。
シンプルな、この願いを叶えるために。