ミライデザイン
「……そんなキモチで待たせてたんだ」
「……そうだよ。だから大いに反省してください」
そんな釘を刺したくなるのも、険しくなる顔を止められないのも、棗のせい。
私が真剣に、正直な胸のうちを話せば話すほど、棗は満足気にいたずらな笑みを浮かべていくんだもの。
死がすぐ傍を過ぎていったことを自覚していないのかもしれないとさえ思う。
「や、しばらくは反省する余裕ないわ」
「余裕ないってどういう……」
ほら、ね。
私が思っているほど、棗は深刻に捉えてない。
なんて。不満をまた一つ数えようとしたら、近づいた棗のにおい。
やさしくおでこに触れる、棗の体温。
「嬉し過ぎて、ムリ」
重なる棗のおでこの感触や、添えられた左手からも、棗の高揚しているキモチが伝わってくるよう。
ふれる棗の猫っ毛が、くすぐったい。
「…大げさ」
つい数秒前までは、楽観的すぎる棗に文句しか出てこなかったのに、途端に後回しにしたくなる。
というよりも、たぶん。
覚悟を持って伝えた意志をこんな風に喜んでくれている棗の姿をみて、私のキモチごとぜんぶ、受け取ってくれたように感じたから。
もう二度と道路に飛び出したりしないよね?なんて確認をするのは、……婚姻届を出す日でも、いい。
そんな平和なことを思いながら、顔に添えられた棗の手に、自分の手を重ねて。
やわらかく混じり合う体温に、呼吸が肌にふれるこの距離で、今すぐに、棗にキスがしたいと思う。
「…………」
それはきっと、棗も同じで。
僅かに離れたおでこに、するりと首までおりてくる、熱くなった手のひら。
合言葉のように、絡まる視線。
お互いが、お互いだけを閉じ込めようと瞼を閉じていく途中で、まるで邪魔をするように、豪快に扉を引く音が響いた。