ミライデザイン
扉が開く音がしたかと思えば、聞き慣れた、だけど懐かしく感じる声がして、頭がついていかない。
見開かずにはいられない瞳が捉えたのは、こんな場所にくるはずのない人だったから……
「九条社長?……なんで」
芯の通った佇まいで、眼鏡を直す素振りをみせるその人は、ほかの誰でもない、九条社長だ。
ミライのことを曇りなく捉えそうな、鋭くもやさしい瞳が微かに弛む。
「社員から度々苦情が入ってね。
仕事のことで如月くんと話してるだけなのに、伊吹くんがこわいと。
それで、秘書の七星や北斗に相談したところ、今回のプランを提案された訳だよ」
ナチュラルに七星さんと北斗さんが用意する席に、九条社長が腰を下ろしながら、明かされていく事実。
仕事中、棗からの視線を感じることはあったけど、苦情が入るほどだったなんて。
と思いつつ、だからって、承諾していいプランだったのかと。
疑問はたしかに持ちながらも、九条社長が持つ威厳のせいで、なるほどと納得してしまいそうになる。
「提案された訳だよ、って。
ノルなよ。そんな提案に。社長だろ」
九条社長に対して、仕事の時は敬語を使ってるけど、付き合いが長い分、プライベートな場所では、第三の息子のように話してる棗。
今はプライベートと判断してか、だいぶ砕けた強めな言い回しで。そんな棗に、本当の子どもな訳じゃないんだからと突っ込みたくなるけど。
定まらなかった私の違和感を、ズバッと言い当てて、言い切ってくれた。
内容的には、私も同感で。
さすがに社員で遊びすぎだし、仕事にも巻き込みすぎだよね?
「そんな提案って失礼な。
こっちは大変だったんだからね?
年々苦情は増えていくし、異動願いだってあった。
沙祈さんのこと大好きなのはわかるし、他の社員もみんなわかってるから大目に見てたけど。
社会人として、事の重大さをしっかり受け止めてほしいんだけど?」
だけど、七星さんの厳しい言葉に、思っているよりも、深刻な問題だったんだと知る。
人事として一切気づけてなかったことも、猛省事項だけど。
それ以上に、何より、たかが私情で、ここまで会社に迷惑をかけてるなんて。
……あってはいけないことだ。