恋愛イデアル続編
イノベーション
[イノベーション]

「最近は時間が足りなくなった、とそう思う」
とイデアル。学校の教室で。

「我々、近年は選択肢が増えましたからね」新聞を読みながら長月遥はそう答えた。

「たとえば我々は中国の三国時代の女流詩人となることも出来る。
夢を見るのが簡単になったぶん、現実を受け止めるのは皆、苦労をしている」

「全くです。
我々は自分自身を信頼していない、とそう感じます」
「だからこそ、音楽は重要なメッセージを伝えている、とそう考えることも出来る」
「それは何故ですかな」
「気持ちを伝えるからじゃないかと思う。加えて録音データとは人間にとって比較的に正直な信号だからじゃないか」

「もう一つ可能性がありますね」と長月遥。
つづける。
「人間は社会というものを徐々に信頼しなくなっているのですよ。多様な視点が可視化されたことで、現代社会では社会的な立場というものが徐々に信頼関係の基盤ではなくなっている」

イデアルはしばらく考えてから。
「つまり現代社会はその運用がむつかしくなった、ということか」
「たとえ哲人王や科学者といえども、くるぶしに石ころを当てられると痛むもの。現代社会のむつかしさは気持ちや考え方が口頭では伝わらない、ということでしょうね」
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