Tears

消毒の匂いがする廊下を歩いていくと、502号室に恭平の姿がなかった。
慌てて看護師さんに確認すると、部屋が移動になったと聞いて少し安心した。
でも、まさかこんなに長く入院が続くなんて。
本当は受験勉強中も恭平が、心から心配だった。
だって、だって私は恭平が...

ガラッとスライド式の扉を開くと、恭平が窓の外をぼーっと眺めていた。
白かった肌がさらに白くなり、顔も少しだけ痩せているようだった。

『...愛莉、』
「恭平、私大学生になるよ」
『ほんとに?』
「恭平の大学も受かったけど、それよりもいい大学に受かったんだ」
『そっか、よく頑張ったな。おいで?』

あの時、喧嘩したことが嘘のように、恭平は優しい声でおいでと言ってくれた。
私が恭平の傍に腰かけると、点滴のチューブを刺された腕を持ち上げ、私の頭を撫でてくれた。

『立派な大人になるんだな』
「なるよ、恭平よりも立派で賢い大人に」
『お前はいい女になるよ』
「やめてよ、他人事みたいじゃない」

ふふっと、優しく笑う顔が綺麗だと思った。
私は頭に乗った手を握って、こないだはごめんねと言った。
こっちこそ、お前の優しさ無駄にして悪かったなって、仲直りできた。
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