君は無垢なフリをして​───本当は野獣。
パタンと扉が閉まる音が響いて、私と中野 神弥との間に暫しの沈黙。



八神架琉のいない今、沈黙を破る人はいない。





「あ、お腹減ったでしょ。何か作るね。」





沈黙に耐えられなくて、先に言葉を発したのは私。



キッチンに向かおうと椅子から腰を上げると、強く腕を引かれてよろける。



が、やんわりと大きな腕に抱きとめられて、私は転ばずに済んだ。





「花菜…」





首元に吐息。



くすぐったくて、身を捩って逃げようともがく。



が、尚一層中野 神弥の腕の力が強まるだけだった。





「少しだけ、ジッとしてろよ。」





か細い声で、そう囁く。



やっぱり八神 架琉の話を聞かない方が良かったのかな、なんて。



今更後悔したりして。





「…架琉が言ったこと、全部ホントだから。」



「え?」


「最初から聞いてた訳じゃねぇけど。アイツが言ってたことは本当。…アイツとは15年も傍にいるからなんとなしに分かる。」
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