ある冬の日の物語
アゲハ蝶は何も言わなかった。
うんとも頷くことも。
当然だ。会話が成り立つことはないのだから。
「俺には大好きな恋人がいたんだ。蝶子っていうんだけど…ひと月前に死んだんだ。俺には生きる意味がわからなくて、受験もしない。何もしない。このままじゃダメなのはわかっているんだけどさ………」
夕方になり、本格的に寒くなってきた。
「冷えてきたな……アゲハ蝶さん。俺の話に付き合ってくれてありがとな。もう悪い奴に捕まったらダメだぞ?」
その場を後にして帰路した。